
はじめに——「化粧品は規制が緩い」という思い込みが、実務での失敗を招く
日本から米国向けに化粧品を販売・輸入しようとするとき、「化粧品なら医薬品や医療機器より規制が緩いのではないか」と考える方もいるでしょう。しかし、その認識だけで米国向け販売を進めることには注意が必要です。
一般の化粧品は、着色料などの例外を除き、FDAによる製品そのものの市販前承認を必要としません。ただし、事前承認が不要であることは、表示や広告の表現に制約がないという意味ではありません。製品の用途、商品ページの効能表現、輸入時の申告内容に食い違いがあれば、FDAの審査や通関手続き、Amazonの審査で問題となる可能性があります。
本記事では、米国における化粧品規制の基本と、日本企業が輸出・販売の前に確認しておきたい実務上の注意点を解説します。規制の条文を覚えるだけでなく、どのような用途や表現によって医薬品規制との境界に近づくのかを理解することが大切です。

米国の化粧品規制をめぐる「よくある誤解」6選
誤解①「FDAは化粧品にほとんど関係ない」
「食品やサプリメントほど厳しくないから、FDAは化粧品にあまり関係しない」と考える方もいます。しかし、化粧品も米国の連邦法により規制されています。身体を清潔にする、美化する、魅力を増すといった用途を持つ製品には、化粧品としての法的な要件が適用されます。
事前承認の有無とFDAの関与の有無は別の話です。通関の過程でCBP(米国税関・国境警備局)が確認を進める中で、必要に応じてFDAへの照会に回ることがあります。化粧品だからといって、その流れから自動的に除外されるわけではありません。
誤解②「事前承認がない=表現も自由」
一般の化粧品にFDAの市販前承認が原則として不要なのは事実です。ただし、FDAの承認が不要だからといって、広告や商品ページに自由な効能を記載できるわけではありません。適切でない表示が販売後の行政対応につながる可能性もあります。
実務で問題になりやすいのは、商品説明文・パッケージ表示・広告コピーの中に医薬品的な主張が紛れ込むケースです。「治療」「再生」「炎症を抑える」などの表現は、化粧品として販売していても医薬品的な効能を示したと受け取られる可能性があります。
誤解③「”肌が治る・再生する”という表現でも化粧品なら問題ない」
これはとくに日本語圏からの出品者が陥りやすい誤解です。日本の薬機法では「化粧品」として認められた表現でも、米国の基準で見ると医薬品的な主張に読めることがあります。言語を変えるだけでなく、表現の考え方ごと切り替える必要があります。
「肌が再生する」「炎症を鎮める」「細胞に働きかける」といった表現は、製品の意図する用途によっては、一般の化粧品の範囲を超える医薬品的な効能の主張と判断される可能性があります。製品区分を検討する際は、成分だけでなく、表示や広告の内容にも注意が必要です。
誤解④「日本で化粧品なら米国でも化粧品(区分は同じ)」
日本と米国では、化粧品と医薬品を区分する制度が異なります。日本には「医薬部外品」という区分がありますが、米国にはこれと直接対応する法的な製品区分はありません。
日本での製品分類をそのまま米国での分類に当てはめると、規制上の判断を誤るおそれがあります。特に日本で医薬部外品として販売している製品については、米国での用途、成分、表示・広告の内容を改めて確認する必要があります。
誤解⑤「化粧品は通関で止まりにくい」
化粧品であっても、米国への輸入時に照会や審査を受ける可能性があります。用途の説明と、パッケージや商品ページに記載された効能が一致していない場合は、輸入手続きで確認が必要になることがあります。
例えば、通関書類では化粧品として申告していても、商品ページに治療目的を示す表現があれば、製品分類に関する照会を受ける可能性があります。化粧品と申告しただけで、ほかの規制の確認が不要になるわけではありません。
誤解⑥「登録・届出=安全認証を取った」
MoCRA(Modernization of Cosmetics Regulation Act of 2022:2022年化粧品規制近代化法)により、一定の化粧品製造・加工施設の登録と製品リスティングが求められています。ただし、特定の小規模事業者や製品・施設には免除規定があるため、すべての事業者に一律の登録義務があるわけではありません。また、登録やリスティングはFDAによる安全性の承認を意味しません。
登録・リスティングは、対象となる事業者がFDAへ必要な情報を提出する手続きです。これらの手続きを完了しても、製品の安全性や表示内容がFDAによって保証されたわけではありません。販売前には、製品の安全性を裏付ける資料と、表示・広告の適法性を別途確認する必要があります。
なぜ誤解が生まれるのか——構造的な背景を理解する
「気軽な印象」が判断を鈍らせる
日本では化粧品が日常生活に身近な商品であるため、米国でも比較的規制が少ないと考えてしまうことがあります。しかし、製品が身近であることと、米国法上の遵守義務が軽いことは同じではありません。
FDAによる市販前承認が原則として不要であることも、規制が少ないという印象につながる場合があります。ただし、承認制度の有無と、上市後の安全性・表示・施設登録などの義務は分けて考える必要があります。
「表現が境界を揺らす」という視点が省略されがち
化粧品と医薬品の区分は、成分だけで決まるものではありません。製品の意図する用途や、商品ページ・広告・ラベルなどでの表現も判断に影響します。この点は、規制の概要だけを確認していると見落とされがちです。
例えば、成分が問題ないことや通関時の申告区分が正しいことだけを確認しても、商品ページに医薬品的な効能が記載されていれば、別の規制上の問題につながる可能性があります。
Amazon対応と通関照会が混線する
Amazonによるコンプライアンス審査と、米国への輸入時の行政審査が同じ時期に発生することがあります。両者は目的も判断基準も異なるため、それぞれの照会内容と提出先を整理して対応する必要があります。
Amazonは販売プラットフォームとして独自の安全基準や表示要件を持っており、行政の判断とは別に書類提出や表現修正を求めることがあります。これを「FDA対応」と同一視してしまうと、対処の方向性がずれる可能性があります。
米国の化粧品規制——制度の基本的な考え方
「身体の外側への作用」だけでなく、意図する用途が重要
米国法では、化粧品は主に、身体を清潔にする、美化する、魅力を増す、外見を変えるといった用途によって定義されます。一方、疾病の治療・予防や、身体の構造・機能への作用を意図する製品は、医薬品としての規制が問題になる場合があります。
製品区分は成分だけで自動的に決まるものではありません。表示や広告によって示される意図する用途も重要です。同じ成分を含む製品であっても、その訴求内容によって適用される規制が異なる可能性があります。
事前承認がない分、表示・安全性・整合性が問われやすい
一般の化粧品については、着色料などを除き、FDAによる市販前承認は原則として求められません。その一方で、販売する事業者には安全性や適切な表示についての法的責任があり、FDAは違反が確認された場合に販売後の規制措置を講じることがあります。
製品の安全性を裏付ける資料、表示の適切さ、輸入申告と商品説明の整合性は、販売後に問題が起きてからではなく、出荷前に確認することが重要です。事前の確認によって、照会への対応を円滑に進められる可能性があります。
輸入時の通関確認は化粧品でも起きうる
CBPは輸入品の通関確認の過程で、FDAや他の機関への照会を行うことがあります。化粧品だからといって自動的にスムーズに通るわけではなく、用途説明・表示の整合性が弱い場合には確認が長引く可能性があります。
通関業者は輸入申告手続きを支援しますが、製品の用途や成分に関する説明資料は、メーカーや販売者が準備する必要があります。必要な情報が整理されていなければ、照会への対応が遅れる可能性があります。
実務で問題になりやすい4つのシナリオ
シナリオ①「化粧品のつもりが医薬品的な表現になっている」
代表的なのは、販売者が化粧品として扱うつもりの製品について、商品説明や広告に医薬品的な効能の主張が含まれているケースです。
「炎症を抑える」「肌を修復する」「細胞に働きかける」「アレルギーを改善する」——こうした表現は、化粧品の通常の目的を超えた効能を示唆しているとみなされる可能性があります。日本語では一般的な表現でも、英語にした際に意図以上に強い主張になることもあります。
シナリオ②「商品ページと通関書類の用途説明がズレている」
通関書類では化粧品(cosmetic)として申告している一方、商品ページや画像には医療的・治療的な用途を示す表現が掲載されている場合があります。
CBPは商品の外観・表示・説明の整合性を確認することがあります。書類上の申告と実際の商品の見え方に乖離があると、「この製品は本当に化粧品か」という疑問が生じ、照会が入りやすくなる可能性があります。
シナリオ③「成分や用途の説明資料が準備できていない」
輸入時の照会やAmazonからの書類提出要請に備え、成分、用途、安全性に関する資料を整理しておくと役立ちます。こうした資料が出荷前にそろっていない場合、回答の準備に時間がかかることがあります。
通関業者は通関手続きの専門家ですが、製品の技術的・規制上の説明に必要な情報まですべて把握しているとは限りません。照会を受けてから資料を集めることになると、回答までに時間がかかり、貨物の滞留につながる可能性があります。
シナリオ④「日本での表現感覚のまま英語化してしまう」
日本では「薬機法的にOK」「自然派成分で安心」として使われてきた表現を、そのまま英語に直訳するのは危険な場合があります。日本語での表現の文化的背景や薬機法の基準が、米国の規制とは前提から異なるからです。
とくに「修復」「再生」「改善」「抗炎症」「免疫」といったキーワードは、英語では医薬品的な主張として読まれやすい傾向があります。翻訳作業を「言語の変換」ではなく「表現の再設計」として捉え直すことが必要になります。
事前に対策できること——実務者が今すぐ整理すべき3つのポイント
①用途説明を「短い一文」で固定する
「この製品は何のために使うものか」を簡潔な一文で説明できるようにしておくと、情報の一貫性を保ちやすくなります。通関書類、商品ページ、よくある質問、広告で同じ用途を説明できる状態が理想的です。
用途の説明は、詳細な説明とともに簡潔な基本表現を定めておくことが有効です。例えば、実際の用途に応じて「身体を清潔にするための製品」「肌の保湿を目的とした製品」などと整理します。製品の実態に合わない表現で区分を取り繕わないことも重要です。
②「言わないこと」を先に決める
表現の管理では、「何を伝えるか」だけでなく、「どのような主張を避けるべきか」を確認します。医療的・治療的な効能と解釈される可能性のある表現を洗い出し、商品ページ、広告、パッケージで統一して管理するとよいでしょう。
製品の魅力を伝えることは大切ですが、化粧品の広告で過度な効能を主張すると、製品が医薬品として扱われる可能性があります。訴求力と規制上の正確性を両立させるため、表現を販売開始前に確認することをおすすめします。
③止まったときの対応窓口を決めておく
通関照会やAmazonからの提出要請を受けた際、対応窓口が決まっていないと、必要な情報の収集や回答に時間がかかります。通関業者、販売代理人、メーカー、法務担当者などの役割と連絡経路をあらかじめ定めておくことが重要です。
まとめ——「化粧品は自由」という感覚を、「化粧品は表現次第」に更新する
米国で化粧品を販売・輸入する際の最大の落とし穴は、「事前承認がない」という正しい情報が「何でも自由」という誤った結論に変換されてしまうことです。
米国での化粧品販売では、成分、製品の意図する用途、表示・広告の内容を総合的に確認することが重要です。同じ製品であっても、訴求する効能によって化粧品と医薬品の両方の規制が関係する場合があります。輸入書類と商品ページの説明に矛盾がないかも確認する必要があります。
この記事で紹介したのは、販売後に問題が生じてから対処するのではなく、出荷前からリスクを減らすための考え方です。化粧品と医薬品の境界を理解し、表示・広告と必要書類を整えておくことが、米国向け販売の安定につながります。
次のステップとして、商品ページの表現チェック・通関書類の用途説明の整合性確認・Amazon 対応の窓口整理を進めることをお勧めします。
